2011年9月12日月曜日

JG8日目「利益が上がる!NPOの経済学」

JustGivingチャレンジも8日目ですが、部屋の片付けや打ち合わせなど、ちょっとでも他の予定が入ると、一気に身動きが取れなくなって遅れてしまいます。。
そして今後も他の課題が盛りだくさん。どこを削る or スピードアップすればいいののかの判断も、きっと学びの一つ。

そんな今回のテーマは、もう何度も読み返した『NPOの経済学』大阪大学大学院教授から大蔵省・慶応義塾大学教授を経て、現在嘉悦大学副学長の跡田直澄氏の著書です。
もろもろNPOやファンドレイジングへの知識や見識を多少は身につけた今、改めて読むと非常に感慨深いものがある1冊でした。

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まえがき)ボランティアという幻想

まず跡田氏は、アメリカでの「セサミワークショップ」(アニメ番組セサミストリートの制作を行う)「リンカーンセンター」「メトロポリタン美術館」「ハーバード大学」等の例を挙げ、それらがNPOとして多くの寄付を集め運営している事、同時に事業として事業を成り立たせていることを説明する。

イギリスとアメリカでは、1970年代にそれぞれサッチャー政権/レーガン政権が、社会保障予算をばっさりと削減してしまったことにより、政府が手つかずにしてしまった社会課題分野に対して、NPOは民間からマネジメントや資金調達の手法を学び、成長していった。

それに対して日本では、1995年の阪神淡路大震災がNPO元年と言われているが、それがボランティアの延長として認識されてしまっている現実がある。
また、しばしば「日本は社会主義の国だ」と揶揄されるように、長い間政府が公共事業や福祉から手を引かず、「公共はお上が担うもの」という認識が抜けなかったという事実もここに影響している。

ミッションを軸とするNPOのサービスが民間企業と競争可能な水準を持つようになれば、結果として民間セクターは透明性を増し、また行政セクターもスリムに成らざるを得ないだろう。そのためには「NPO=ボランティア」という幻想からの脱却が必要だというのが、この本の中での一貫した主張だ。


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第1章)NPOのビジネスモデルを考える

次の章では、実際に利益をあげて持続出来る事業型NPOの工夫について、実例を基に考える。まず跡田氏が一つの形として提案するのは、以下の図のモデルである。


NPOに関連会社を作り(ここでは、障害者がパンの製造を行うNPOの工場と、それを販売する民間企業としてある)利益をNPOに寄付する。同時にNPOと会社の職員を重複させることで、人件費を企業側の経費とすることができる。
*注:寄付の所得控除もあり法的には問題ないが、2011年6月30日〜施行の認定NPO法人制度の役員要件には注意が必要

また下図のように、NPOの安定的な経営には「事業収入」「補助金・助成金」「寄付・会費」がそれぞれ1/3ずつであることが理想的であるとし、補助金・助成金ありきや、損益分岐点を基準としてしまうコスト管理ではなく、積極的にファンドレイジングを行っていく必要性を訴えている。


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第2章)この「ニッチ(隙間)を狙う」

アジアの中ではNPO先進国として知られるタイは、国際化と共に1980年代に流入してきたエイズ問題に対し、政府が対応出来ない「隙間(ニッチ)」な分野の問題として、海外NGO/国内NPOの活動が活性化した。
その際の大きな特徴として、企業の社会貢献活動である「メセナ」や「フィランソロピー」の概念が、事実上の王制の存在、王様に寄付をする という感覚で促進された。

対して、日本では福祉や公共事業の分野で「PFI(Private Finance Initiative)=民間資本主導による公共サービスの拡充促進方策」が採用されている。

跡田氏は、もしこの大きな流れの中、成功するNPOの事業として考えるならば「高齢者への健康を配慮した配食サービス」しかも民間が主なマーケットとするであろう富裕層は、初めからターゲットから外したものが有効だろうとしている。
もしくは、町おこしや環境アセスメント(評価)をきちんと踏まえた上で、地域住民の声を自治体とつなぐコンサルティングサービスを行うプロNPO集団にも、大きなニーズと可能性があることを説いている。


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第3章)「寄付市場」を創り出す

NPOが安定した財源を確保していくのに欠かせない収益源は寄付だ。

日本にはよく「寄付文化が無い」ということが語られるが、かつての大阪商人は自費の寄付で「橋」という公共インフラを設置した。
これは単に篤志家ということを超え、交通網の発達と商業の活性化という中長期的利益を得た事から、現在で言う「SRI(Socially responsible investment)=社会的責任投資」であるとされる。

こうした文化は、戦時体制以後の中央集権化、そして第二次世界大戦後に確立された徴税システムで「富の再分配機能は政府の一手に集められる」という考え方のもと、失われていった。

その後1980年代後半に、日本企業の海外進出による地元住民からの寄付依頼の機会が増加した事、またバブルの時期も重なり、1990年経団連の「1%クラブ」「企業メセナ協議会」が発足し、フィランソロピー元年とも呼ばれたが、バブル崩壊により収束してしまい、再び日本の寄付文化が復活する機会を逃してしまったという。

跡田氏は「寄付は投資(または投票)である」と表現し、投資であるからには、株でいう「キャピタルゲイン(譲渡益)」と「配当金」にあたるインセンティブを付与する事が必要であるとした。
それはもちろん直接的な金銭的リターンではないが、時に社会的名誉や、自己効力感、SRIのような中長期的見識のある自己利益、もしくは「CSR(Corporate Social Responsibility)=企業の社会的責任」という視点から、社会信頼コスト支払いという形でのリターンが考えられる。

既存の一括集金型/釣り銭型/共同募金等の顔の見えない寄付(間接寄付)から、使途や受益者の顔が見える寄付(直接寄付)へと移行することで、NPOはその力を十分に発揮し、以下のような図の中で、まえがきに書いたような「他セクターを浄化する力」を持つ事が出来るだろうとされている。



第4章)NPO業界の足下を見つめる

この本の最後には、これまで提起された問題解決と理想の実現を目指すNPOが、直面するであろう課題について書かれている。
それは端的に2つ「収益事業への課税」と「寄付の税控除」である。

前者についてはグラフにして可視化し掲載されているが、日本のNPOは一般企業とほぼ同じ扱いであり、アメリカやイギリスのような非課税措置は揃っていない。


また後者についても、小さな政府による「国庫助成金の削減と民間寄付市場の拡大」は、政府にとっても必要なことであるが、現状、個人の寄付/法人の寄付相続財産の寄付いずれについても控除の制度はほぼ考慮されておらず、NPOが寄付を集めることは制度上非常に難しくなっている。

これらを解決し、またNPOセクター全体を押し上げる政策として2001年から実施されている「認定NPO制度」とそれにかかる「寄付税制」であるが、実際のところほとんど現場で活用出来るものにはなっていない。

まずは現場レベルから、民間の財務や営業といった分野での優秀な人材を確保し、スキルやノウハウをもった転職/引退世代と、新しい価値観や志の高い若手起業家の台頭から、変革を起こしていけることを期待しまとめられている。

*注:本書は2005年に書かれているが、2011年現在、念願の上記2制度が大幅な拡充をされ改正された。またこれについては、別途一つの記事の中で説明させて頂きたいと思う。

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