2011年9月14日水曜日

JG10日目『「新しい公共」宣言』

鳩山由紀夫首相(当時)が2010年に言葉として取り上げ、国家戦略の柱とした「新しい公共」は、ソーシャルビジネスやボランティアの活性化、また6月に成立したNPO法改正&新寄付税制にも大きな影響を与えました。
マスメディアにはほとんど取り上げられることがありませんが、震災以後、 NPOだけでなく政府や民間企業の様々な取り組みを見るに、それぞれの動きがこの概念に向けて加速し、また繋がっているように感じます。

しかし同時に、この言葉の意味は広く分抽象的で、「NPOの分野にいるから」ということで周りの人から説明を求められても、なかなか伝えて理解してもらうのに苦労する経験が僕にもあります。
そこで今回はこの実現の為の制度・政策の在り方などについて議論を行うための会議であり、鳩山首相本人もほぼ毎回出席したと言われる「新しい公共円卓会議」(全8回)のまとめでもある『新しい公共宣言』について、改めて考え、捉え直してていきたいと思います。

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■はじめに

まず、新しい公共のことを話題に出す際に、「(内容については賛同だが)全く新しくも何とも無い、当然だ」という人が少なくないように感じるが、『新しい公共宣言(以下、宣言とする)』の中では「はじめに」の中で以下のように断っている。
(以下、青字は文中から引用)

これは、必ずしも、鳩山政権や「新しい公共」円卓会議ではじめて提示された考え方ではない。これは、古くからの日本の地域や民間の中にあったかが、今や失われつつある「公共」を現代にふさわしい形で再編集し、人や地域の絆を作り直すことにほかならない。

つまり「新しい公共」は単に新しいものを上から導入しようとするものでも、かつてのムラ社会を賛美するものでもない。
その上で、「京都マンガミュージアム」や、徳島の葉っぱビジネス「いろどり」における地域の力、また「ビッグイシュー」のケースにおける、市場の原理に共感とコミットメントが付与された実践的な取り組みを紹介し、現場からの広がりを期待・模索するものであったことがわかる。


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■「新しい公共」と日本の将来ビジョン

では、これが目指す社会の姿とはどのようなものか。

「新しい公共」が作り出す社会は「支え合いと活気がある社会」である。すべての人に居場所と出番があり、みなが人に役立つ歓びを大切にする社会であるとともに、その中から、さまざまな新しいサービス市場が興り、活発な経済活動が展開され、その果実が社会に適正に戻ってくる事で、人々の生活が潤うという、よい循環の中で発展する社会である。

ここのポイントは大きく2つに分けられるだろう。

一つ目は、「全ての人に居場所と出番があり〜」という箇所であり、これは明治以降の近代化の中で「公共=官」となってしまった国民の意識が、再び当事者として自立と周囲への恊働の意識を持ち、広義の政治=政(まつりごと)=まちづくりに参画していける状態を述べていると考えられる。

二つ目は、あくまで「活発な経済活動」という視点を持ち、変化を単に個人の善意に基づく慈善・道徳概念として求めるのではなく、現実的な提言がなされていることだ。
その説明においては、日本に古くから存在したとされる「稼ぎ」と「つとめ」の思想を例にあげ、それを現代的に「経済的リターン」「社会的リターン」という言葉で置き換えており、その両立は可能であり、むしろそこからこそ新しいサービスが生まれるのだとする。

昨今のグローバリゼーションの中では、短期的利益のみを追い続けることが宿命となってしまっており、その結果、環境や人材育成が持続不可能な状態となり、これまでの資本主義そのものが限界に来ている。
これは、東日本大震災を経た我々が、原発事故や連日のマスコミ報道から更に生々しく実感せざるを得ない事実である。

また宣言には「ソーシャルキャピタル」という単語もたびたび使用されている。
日本語で「社会関係資本」と訳されるその概念は、人々の相互信頼により社会コストは低く、同時に住民の幸せ度が高いという状態の指数を表し、「ソーシャルキャピタルの高い(低い)地域」等の使われ方をする単語である。
これまでの行き過ぎた個人主義から生まれた、経済的自立と背中合わせの孤独という側面から、日本社会が目指す新しい道を示しているように思われる。

図は「新しい公共」のイメージモデル

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■「新しい公共」を作るために

宣言では、「新しい公共」は当事者が役割を持って参加する「協働」の場であるとし、その主役は一人一人の国民であり、企業と政府にもそれぞれの立場への方策を提案している。
ここからは、具体的にそれぞれに対しての文言について見ていく事とする。

(1) 国民に対して

一人ひとりが、人の役に立ちたいという気持ちで、小さな一歩を踏み出す。そのことこそが「新しい公共」の基本だ。

と前置きした上で、東京都三鷹市の小中学校と幼稚園での異年齢ボランティアと地域への広がり、長野県で1950年代から続く「地域保健指導員」による地知的な健康管理と大幅な医療費削減、兵庫県丹波市の母親コミュニティによる地域医療保全活動など、具体的な取り組みを紹介している。
そこに通じる力は、「自分たちの社会幸福は自分たちで作る」という人々の意識であり、奉仕活動という意味に貶められてしまった「ボランティア」の意義が、本来の力を取り戻しつつあるという証明ではないか。

(2) 企業に対して

企業には、「あくまで市場の原理は非情であり、資金は社会的リターンのの大きな方に流れる」ということを認めた上で、現代においては、社会貢献活動による新たな出会いと刺激の創出や、CSR的観点での社会的善を行う事が競争力となり、既にその事実に気付いている企業も少なくないと説く。

企業には、その持続可能性を高めるためにも、社会貢献活動やメセナ活動を通した社会との関係の重要さを認識していただきたい。

ここでも、システムとしての営利企業の立場を理解し、モラルや情に訴えかけるのではなくインセンティブを説明することで、合理的な選択の結果として、企業も社会との関連性を無視しては、その構成員の一部として存続していけないことを明らかにしている。

(3) 政府に対して

公務員制度改革により、官民や省庁の垣根を越えて、社会全体からもっとも専門性が高く勤勉かつ有為な人材を登用して、行政の質の向上を図るべきである。税金の無駄遣いを根絶するとともに、事業仕分けなとの新たな予算編成手法も活用して、財源の適切な配分につとめなければならない。政と官が協力して、これまでよりもっと大胆に、情報公開、規制改革、地域主権等の推進を断行することを強く要望したい。

政府には、そのものの立場からでありつつも明確に既存のシステムを批判し、単に「ムダを減らす」というような努力目標ではなく、具体的にどこにどうメスをいれるべきかが書かれている。
更に注目すべきは、民間から提案のあった法改正案への強力な後押しである。

「新しい公共」の基盤を支える制度整備については、税額控除の導入、認定NPOの「仮認定」とPST基準の見直し、みなし寄附限度額の引き上げ等を可能にする税制改革を速やかに進めることを期待する。

この法案については、政権の不安定と国会のねじれにより、一時実現が不可能かと思われたが、超党派の議員連盟や、「NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会」を中心とした「NPO/NGOに関する税・法人制度改革連絡会」の尽力により、2011年6月に無事に通過した。
「国民による事業仕分け」とも表現されたこの制度自体が、NPOに国民のお金=政府の財源である税金が直接流れ込むという事であり、新しい公共の実現には、市民の自主的選択とNPOの活力が必要不可欠だという判断が見てとれる。


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最後に、宣言の最後にある言葉を紹介する。

人間の中にもともと存在する、人の役に立つこと、人に感謝されることが自分の歓びになると いう気持ちと、そうした気持ちに基づいて行動する力。それをもっている人間は、公共性の動物だといえるかもしれない。「新しい公共」では、国民は「お上」に依存しない自立性をもった存在であるが、それと同時に人と支え合い、感謝し合うことで歓びを感じる。それが「新しい公共」が成立することの基盤である。

鳩山由紀夫氏が所信表明演説で語った「居場所と出番のある社会」「人間のための経済」「国民のいのちと生活を守る政治」
そして政府メンバーはもとより、民間企業の社長、大学教授、NPOの代表、自治体の長という、異なる立場の識者が一同に集まり、対等な議論を重ねてつくりあげた「新しい公共」の小さな種。

これらが浮ついた理想論に終わるか、より多くの人々の心の琴線に触れる事ができるか、それは既に当事者となった我々自身一人一人が、実現に向けて行動する事でしか判断することはできないだろう。

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新しい公共宣言(PDF) 
www5.cao.go.jp/npc/pdf/declaration-nihongo.pdf
新しい公共円卓会議 http://p.tl/oZ6R
新しい公共推進会議 http://p.tl/FTD7
第174回国会における鳩山内閣総理大臣施政方針演説  http://p.tl/Tieh

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