2011年9月19日月曜日

JG12日目「チェンジメーカー」

JustGiving12日目/13日目は連続で「チェンジメーカー」「社会起業家という仕事(チェンジメーカーⅡ)」を題材にすることにしました。

「新しい公共」円卓会議の委員でもあり、「アショカ・ジャパン」( http://www.ashokajapan.org/ )の創立にも深くコミットメントされている渡邊奈々さんが著者であり、この分野に興味を持った事がある方なら、誰もが一度は聞いた事があるタイトルではないでしょうか。

この本は、それぞれ世界の各地域で活躍する社会起業家へのインタビュー集という体裁になっていますので、その中から興味を持ったポイントと、自分なりの見解を綴っていく事にします。




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1.社会起業とは?

カーター政権家で環境保護庁のアシスタント・アドミニストレーターとして「排出権取引」という画期的なアイデアを出したのが、社会起業家の父とも言われる【ビル・ドレイトン】だ。
彼は、産業革命以降「消費セクター」の発展と競争激化により、福祉や教育など「社会セクター」が断絶されてしまったことを問題とし、それらを再び繋ぎ直すために、当時務めていた外資系経営コンサルティング会社のマッキンゼーにいながら、【アショカ財団】を設立する。

【アショカ財団】はインドやインドネシア、ブラジルを初めとし世界中を尋ね歩き、優秀な社会起業家を発掘する。
厳しい面談を経て「アショカ・フェロー」に選ばれた人材には、資金面の支援だけではなく、一流のビジネス・アドバイスや、アショカのネットワークに加盟する権利が与えられ、結果としてその多くの事業が、広範囲に展開し、各国の政策にも影響を与えるという。

ドレイトンは、社会起業家を見るポイントとして、情熱やクリエイティブ、具体的な戦略と同時に、危機に対応出来る柔軟性が必要と説き、また、社会を変えるという偉業に対しては行動の持続力、なにより、誠実な人間性を求めるという。

社会起業家は、単に事業性と社会性の両立だけではなく、それが「社会を変える」為には大陸スケールで展開する仕組みを考える。
どんなに優れたビジネスモデルがあっても、それが一部の天才や人脈など個別の要素に成り立つものでは、他地域への展開は見込めない。だからこそ、持続可能性と共に世界で普遍的なインセンティブにつながる「収益性」を重視するのだ。


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2.ビジネスの価値

社会起業家は収益性を重視すると書いたが、それはあくまでも「儲かる事が前提である上での余力による社会貢献」という意味ではもちろんない。

「単なる金銭をばらまくだけのチャリティは穴の空いたコップに水を注ぐようなもの」と発言した【ジャクリーン・ノヴォグラッツ】の【アキュメン・ファンド】は、ソーシャル・ベンチャーに投資を行った後、それによってどれだけ具体的に社会改善が行われたかという「ソーシャル・リターン」を株主に説明する。

視覚/聴覚障害者向けに高水準の医療サービスを届ける【プロジェクト・インパクト】では「多層値段付与システム」という手法を用い、補聴器の価格を、国はもちろん一人一人の支払い能力に応じて変更し設定している。
これにより、医療を本当に必要としている貧困層に届けることを可能にしているのだ。

これらの事例から、資本主義の中で人々が失いつつある「お金は手段であって目的ではない」という当たり前の原則を貫いた上で、社会起業家たちはビジネスの手法を正しく用い、事業を推進しているという事がよくわかる。


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2.インディペンデントであるということ

途上国支援において真空地帯であった、中間層かつ経済の中心である小規模な会社などに経営支援やネットワークづくりを行うNPO【エンデバー】の代表【リンダ・ロッテンバーグ】は、その活躍に対してチリの大統領が45万ドルの寄付を申し出た際に「お上のヒモ付きのお金は自由に使えないので興味がない」と断ったというエピソードがある。

今やマス広告でもしばしば見る事が多くなった【国境なき医師団】は、赤十字メンバーとして紛争地域に入るも、「現地政府の干渉により満足に治療が出来ない」といった不満を持つ医師達が集まって立ち上げた団体だ。
その活動費の8割を個人や民間企業の寄付から賄う事で、独立性を保っている。

ホームレスのエイズ/HIV患者に住居を提供し、デイセンターにてカウンセリングやセラピー等の支援プログラムを実施する【ハウジング・ワークス】は、設立から7年目に市が突然、運営資金の半分にものぼる650万ドルの補助金をカットしたことで破産寸前に追い込まれた事がある。市長がエイズ問題に冷淡であることを批判していたことが理由だという。
一人の寄付提供者の提案から始めた古着店やブックカフェの経営を始め、収益を確保することにより経営を立て直したが、創立者の【チャールズ・キング】は、「公金に頼る恐ろしさを痛感した。お上の機嫌を取りながら恵んでもらう従来のNPO経営では、社会問題を解決できない」と語る。

「お金をどこから得るのか」ということそのものが、「誰の顔を見て、誰に利益を届けるべきか」という、活動の中身とミッションに密接に関係しているのだ。


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4.社会起業家の情熱

【ソッコルソ・クラウン】のホスピタル・プログラムでは、プロの役者を道化として小児病院に送り込む。
単に病院内のプレイルームで息抜きとしての娯楽を行うのではなく、重体の子と接したり、手術中に立ち会うことで子どもの恐怖を和らげる活動を行うこの団体では、プラスチックの赤い鼻にメイク、トランプやラッパの小道具を沢山持った道化師に、強い精神と状況判断、エゴの無い崇高な人間性を求める。

不登校の子ども達のために24時間ホットラインやスクーリング機能を持った新しい学校を作った【スマイルファクトリー】の【白井智子】は、松下政経塾での研究時代、校長に許可を得て千葉県の公立小学校にオーストラリア帰りの「転入生」として2ヶ月間潜入した。23歳の時である。
「子どもに問題があるのは、周りの大人たちに問題がある証拠です」と明言する彼女の人間性と誠実さが、突飛としか思えない行動にも、周囲と子ども達の理解を可能にしたのだろう。


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5.コンパッション

「社会起業家」や「ソーシャルビジネス」という言葉や、そう呼ばれる人/団体に嫌悪感を持つ人々が一定数いるような感じを私は受ける。それは主に、世の中所詮は金と信じて疑わない人間か、もしくは古くからの草の根NPOの人間であるような気がする。
後者の理屈として「人助けにビジネスなど」「それでは解決できない分野もある」という思想なのか、それは時に、メディアから脚光を浴びつつある社会起業家たちと、古くから地道に活動して来た自分が認められなかったことを比較した、不満や嫉妬ではないのかとも感じる事がある。

本書の著者である【渡邊奈々】は、あとがきに「無償奉仕は、日本人には体質的になじみにくいだろう、でも、ビジネスにつながるソーシャル・アントレプレナーシップならば受け入れられやすいのではないか」と思い、この概念を日本に持ち込んだと書いている。

あくまで、彼女も社会起業家が全ての問題を解決すると礼賛しているわけではない、ただ、彼女の友人が口にした「日本人には自分より恵まれない人に対するコンパッション(単なる同情を超えた共感)が足りないのではないか」という言葉と、90年代日本の「ビジネスと成長、金銭価値が全て」という感覚の現実の間を埋める、次の時代に適正な流れを見極めた新しい手法だったに過ぎない。

この本が書かれたのは2005年、2011年を迎えた現在は、東日本大震災という歴史上未曾有の悲劇を超え、これまでの資本主義への疑いと違う新しい価値観を探す動きが加速した。
困っている他者への共感が、寄付やボランティアという行動を自然に後押しした。
日本人の中に「コンパッション」が生まれたことは、日本のソーシャルアントレプレナーシップが、次のステージに進んだことを感じさせる。

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