2011年9月19日月曜日

JG13日目「社会起業家という仕事」

JustGiving13日目は昨日の宣言通り、連続で「社会起業家という仕事(チェンジメーカーⅡ)」を題材にしました。

第一作目と同じく、17のテーマ/20名以上のインタビューという切り口で創られたこの本は、やはりそれぞれ手に取る方によって心に響くポイントは異なると思いますので、ぜひ一度書店でパラパラとめくるだけでも、ぜひ。


__________________


1.事業としてのソーシャル

【ベストガード・フランドセン】は、世界の貧民のための人道商品の研究/開発/販売を行っている。
マラリヤを防ぐ為に効果的な殺虫剤織り込み蚊帳である「パーマネット」が2003年に登場以来、その類似品を生産する企業が数社表れたことを、創業者の【
ミケル・ベストガード・フランドセン】は喜んでいる。それは単純に利潤を追求することではなく、人道製品という市場を創出し、競合製品がクオリティを高めていくことを良しとした彼の広い視点によるものだろう。

日本の社会起業家の代表とも言えるのは【駒崎弘樹】病児保育を中心としたサービスで、子育てと自己実現の両立を切り開く【NPOフローレンス】を立ち上げた。
フローレンスは共催保険型のサービスで会費を収益源としているが、当初その価格をあまりに最低限に設定していたため、半年経った時点で値上げに踏み切ったのだが、本書にあるその時の会員の反応が驚きである。
「財務諸表の人件費が少ないので心配していました」「会費を値上げして経営が成り立つようにしてください」「フローレンスが無くなったら困るのでどんな協力も惜しみません」
通常は消費者に対して安ければ安い方がサービスといったような風潮がある中で、本当の意味で必要とされ、利用者が仲間として支える事業を行うのが、社会起業家と呼ばれる仕事なのだろう。


------------------


2.心の在り方

子どもたちの中に共感の力を育て、暴力やいじめをなくす【ルーツ・オブ・エンパシー】はそのプログラムの中心に「赤ちゃん」を触媒とするという非常にユニークな取り組みだ。
親を目の前で殺され心に深い傷を負い暴れたばかりいた少年が、赤ちゃんとのやり取りの中で心を触れ合わせ、笑顔を取り戻した。彼がその直後にインストラクターに向けて発したと書かれている「誰からも愛されたことがなくても良いパパになれるの?」という言葉は、押さえ込まれていた人間性が溢れ出した瞬間と言えるだろう。

一方、【インターナショナル・ブリッジス・トゥ・ジャスティス】代表の【カレン・チェ】は、犯罪を不当に裁く法律システムに対し、強い憤りと正義感を持って活動しているが、「政府を的に回して熱血で正義を訴えるような、自己陶酔型の人が何かを変革したためしがない」ときっぱりと語る。

社会起業家は、既存の数字だけで説明できるビジネスとは異なり、人間の根本的な感情や本当に大切にしたいものに訴えかけるが、そのプロセスはあくまで戦略的であり、自分の正しさを押し付けるようなことはしない。


------------------


3.当事者に寄り添う

フリーターがホームレスに転がり落ちていかない、もしくはそこから這い上がる為の、日雇い仕事紹介機能を併設した短期滞在住居施設を運営するのは【エム・クルー】代表取締役の【前橋靖】だ。
彼自身がホームレスの経験者であり、彼ら自身の社会的弱者としての「自己憐憫」や「被害者意識」という思考の癖がまさに自分ごととして理解出来るという。
「フリーター問題はどこまで彼らに寄り添えるかがカギ」「彼らはやる気がない訳ではなくて、居場所とチャンスを与えて辛抱強く待てば必ず立ち直る」と語るその姿勢は、人への強い信頼と自信を感じさせる。

【パラン・パル・ミル】は、貧しい移民や親に放任され充分な愛情が受けられない子ども達に、里親とのマッチングを行う。1990年の設立からこの本が発刊された2007年時点で
2700組を超える縁組みを成功させているのは、代表である【カトリーヌ・オンジョレ】の幼い頃の経験と無関係ではないだろう。
貧しさと政府の政策により強制的に里親を点々とさせられたこと、その後叔父の深い信頼で大学を卒業し教師になった事などの経験が絡み合って今の彼女の問題意識と強い情熱を形成している。

巻末の解説では、社会起業家フォーラム代表の【田坂広志】が、「原体験」という単語をしばしば使用している。
他の誰でも無い、自分自信が出会った社会の矛盾や、強く共感したことは、「この問題を解決するのは自分の使命だ」という、必然性の意思の力を呼び起こす。
日々見過ごして来た小さな違和感を「こころのさざ波」とし、自分の内なる声に耳を傾ける。その時、我々一人一人が社会と向き合い、接続している、自分から何かを変えていける「ソーシャル・アントレプレナー」(社会起業化精神)を手にするのだろう。


------------------


4.広がりへ

余談としてだが、この本を読んだ時に残る違和感の一つは「ほぼ全ての社会起業家がエリートである」という事実だ。
両親が学者や芸術家、著名な経済人であること、若いうちに海外留学をした事、有名大学で再先端の研究に心血を注いだ事。もちろん、幼い頃の苦境を乗り越え、這い上がった人もいるが、やはりその才覚や努力は、凡人のそれとは明らかに違う。

この本を読む年齢層の大半は、これからエリートになる世代ではない、「既にエリートである」か「既にエリートではない」かのどちらかだ。
もしこの事実だけをピックアップするなら、「所詮は一部の選ばれた人間か、不屈の精神を持つ努力家でなければ社会は変えられない」という結論に至り、「では社会起業家達に任せておこう」というマインドになってしまう、それでは、社会が本当に変化したとは言えない。

しかしきっとこの本が伝えたいことは、そうではないと思う。

確かにソーシャル・アントレプレナーの創成期は、これまでの社会の壁を突破すべく、ごく一部のエリートの類い稀なる力が必要だったに違いない。
けれど、そこで社会のシステムや人々の思い込みという分厚い壁に「事例」という小さな穴をあけた事、また、その手法をケーススタディとして次世代に残した事は、きっと次に続く変革の大きな助けになるだろう。

これまで一人のスーパーマンが成した事を、次は3人の努力家が力を合わせる事で実現できるかもしれない。その更に次の時代には、もっと多くの、ごくごく普通の日常を生きる人々の力を集め、社会を変える事が出来るようになっているだろう。
むしろ、その力を発揮するプロセスを開放することそのものが、本当の意味で「社会を変える」ということかもしれない。



誰しもが 変化の当事者 であるに違いない。 

「チェンジメーカー」というタイトルに込められた思いや、社会起業家達の志、我々がどう受け止め、次に繋いでいくのだろうか。

__________________

このチャレンジに共感した!役にたった!応援する!と言う方はぜひ
JustGivingからご寄付をお願いします* → http://p.tl/L-o9

0 件のコメント:

コメントを投稿